読書感想文

飛浩隆『零號琴』

人類にこういうの、書けるんだって思った。多少物語に接している人であれば、この作品の構築に必要な想像力のスケールの大きさにたじろぐと思う。そして作者は、この大きな想像力で、想像力の営為である日本SFをまるっと懐疑に付して解体し、これまでの歴史…

『正岡子規ベースボール文集』

久しぶりに子規を読んだ。子規の文章は明るい。この本では明治の無骨な日本語でベースボールに戯れる若者の日常が綴られている。 巻頭のベースボールの句はいずれも魅力的で、それだけでも十分にこの本を手に取る価値がある。子規は句の中ではボールを「まり…

村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』

すごく読みやすい。文章があまりにも上手く、筋書きも明瞭。戦争が生んだ傷こそが自分の出生と家庭の淵源であるとを「猫」を象徴的に使いながら平明に記す。多岐にわたる重要な情報が無理なく整理されて短いエッセイに書き出されている、ここまで明瞭に文章…

日本SF作家クラブ編『AIとSF』

1つ1つがちょうどいい長さだからざーっと読めた。最近のAIの進化と再度夏の時代を迎えている現代日本SFの切り結びを見ることができる一冊。以下、面白かった作品の感想。 長谷敏司「準備がいつまで経っても終わらない件」は大阪万博の準備をネタにしたコメデ…

『現代短歌パスポート:シュガーしらしら号』

現代短歌の歌人の作品を集めたアンソロジー。意外なほどサクッと読んでしまった。良かったです。おすすめ。 千種創一「White Train」は千種さんらしいはかなく繊細で諦念の漂う連作で美しい。最後の1つ前「一巡したらこの席でまた会えるからそんなに悲しまな…

北村薫『雪月花―謎解き私小説―』

北村さんは『空飛ぶ馬』以来ずっと様々な形式で文学の話をし続ける。本作は私小説である。随筆ではない。北村さんご自身が「私小説の方法は、情痴小説や家庭の葛藤を描くことにのみ適用されるものではなかろう」と記していらっしゃるように、日本文学史のエ…

2023年5月14日日曜日

曇り時々雨の日曜日。鼻に出来物があって痛い。 オンラインミーティングがある。いろいろ話す。相変わらずパソコンのカメラがダメでミーティング途中で落ちてしまう。このパソコンは買ってまだ半年なのだけれど、どういうことだ。 論文を仕上げて送る。少し…

『Genesis この光が落ちないように』

東京創元社のSFアンソロジー『Genesis』シリーズの第5集『Genesis この光が落ちないように』を読みました。全集完走。面白かったです。 八島游舷「天駆せよ法勝寺[長編版]序章 応信せよ尊勝寺」は佛理学が存在する世界でのスチームパンクならぬ佛パンクの…

村上春樹『一人称単数』

村上春樹は小説家としてすごく腕が良いからシンプルな素材で勝負できる。いずれも小説の大筋は凡庸なものたちで、それこそ知人が雑談中に昔あった不思議な話として語り始めてもそんなにおかしくないように一瞬思わせるぐらいの内容を狙っている。しかしいず…