『正岡子規ベースボール文集』

 久しぶりに子規を読んだ。子規の文章は明るい。この本では明治の無骨な日本語でベースボールに戯れる若者の日常が綴られている。
 巻頭のベースボールの句はいずれも魅力的で、それだけでも十分にこの本を手に取る価値がある。子規は句の中ではボールを「まり」と読んでいて、そのおかげで句の全体に丸みが出ていて良い。
 ベースボールの解説をしている文章は、子規の筆力が発揮されていて結構わかりやすい。写生説を唱えた人だけあって、ベースボールをしっかり写しとって記述している
 エッセイでは明治の学生たちが野球に戯れる姿が描かれている。当時の若者の様子がうかがえて面白い。今と比べて大きく異なることはたくさんあるけれど、目を引くのは球を打つことや投げることよりもキャッチすることが難しいように書かれていることだろう。キャッチャーは剣道の面と小手のようなものを付けていたと書いてあるけれど、それ以外の選手については記述がないので、もしかするとキャッチャー以外は素手だったのかもしれない。素手ではボールをキャッチするのは難しかっただろう。
 「喀血始末」は肺を病んだ子規が、閻魔大王によって病気について裁かれるという小説で、ひたすらふざけ倒している。血を吐きながら死に向かっている病気の自分をネタにしていくスタイルには、明治という時代の一側面を感じさせるものがある。
 最後に編者解説で紹介される子規がベースボールから引退するきっかけについての挿話は美しくも切ない。子規はいつもドラマチックなものとして私たちに現れてくる。

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