日本SF作家クラブ編『AIとSF』

 1つ1つがちょうどいい長さだからざーっと読めた。最近のAIの進化と再度夏の時代を迎えている現代日本SFの切り結びを見ることができる一冊。以下、面白かった作品の感想。
 長谷敏司「準備がいつまで経っても終わらない件」は大阪万博の準備をネタにしたコメディタッチながらよく読むとまじめなことを書いているタイムリーな作品で、冒頭の作品として良かった。高山羽根子「没友」は人格とコミュニケーションのあり方を問う優れた作品で、短編としての完成度が最も高い。津久井五月「友愛決定境界」は『攻殻機動隊』などで電脳とリアルの問題として取り上げられてきたテーマへの新しいアプローチで良かったです。斧田小夜「オルフェウスの子どもたち」は陰謀論の問題を利用しながらAIホラーとも呼ぶべき作品になっていて面白い。竹田人造「月下組討仏師」はSFとしての面白さもさることながら作中にあふれる愛がすばらしい。野尻抱介「セルたんクライシス」はのほほんとポジティブな作品で、アンソロジーにこういうのが1つあることは大事だなとしみじみ思わせてくれる。飛浩隆「作麼生の鑿」はまさかの漱石夢十夜』モチーフから実在論をめぐる哲学問答に踏み込んでAIの限界を問い、さらに社会派へとひねっていく高度な作品。この短さでここまでするのはすごい。円城塔土人形と動死体 If You were a Golem, I must be a Zombie」は『AIとSF』にこれを書くのはすごいなと思う。しかしこれはまぎれもなくAIの話である。難解だけど円城塔作品だもの)、作品集のトリを飾るのはこれしかないなと思わせる美しい幕切れとなっている。
 このアンソロジーは竹田、野崎、飛の3作品が仏師(あるいは仏師AI)を描いていて、3つもあると面白い。AIと芸術創作と宗教の3つがクロスするポイントとして仏像は注目しやすいのかな。

www.hayakawa-online.co.jp