2023年9月23日土曜日

 曇りの土曜日。涼しい。久しぶりにクーラーなしで過ごした。日中はお腹の調子が悪く、横になって過ごす。起き上がって家族の分の昼ご飯を買いに行くだけ行って、自分は食べずにまた横になる。
 新聞で「澁澤龍彦 泉鏡花セレクション」を紹介する記事を見て、いいな、鏡花はあんまり読んでいないんだ、これで読もうかなと思ったけれど1冊9680円の4巻本とのこと。それはちょっと高いな…
 起きてZoomで読書会をする。ひとしきりみなそれぞれそれぞれなりの不景気な話をしてから西田幾多郎を読む。今日はそれぞれの哲学観が見える議論になったので良かった。
 読書会が終わったのでまた横になる。夕方になって起きる。
 読みさしになっていた三島由紀夫『夏子の冒険』を読み終える。三島の才気が迸るハイクオリティな娯楽小説。「あなたのほしいものは全部いれておきました。サービス満点☆」みたいな小説。文章がとにかくハイクオリティで、当時の世相を生き生きと描いている。それだけにところどころがどうも異様で目を引く。情熱的な瞳だけを求める主人公の夏子の性格はあまりにも激しい。『潮騒』と同様に究極のプラトニックラブが成立する瞬間の希求が作品の根底にあり、その過激さが作品に大きな力を与えている。東京にはない純粋な情熱を求めて北海道を舞台にしたのだろうけれど、北海道とアイヌの描き方には「植民地観光小説」の趣があり、作品のクオリティが高いだけに居心地の悪さもある。主人公の母・叔母・祖母のトリオのドタバタコメディっぷりは傑作で、文字だけでここまでできる人は三島しかいないのではないか。とはいえ、おばさんたちだけが徹底的にコメディキャラにされる展開には、それがあまりにも洗練されているからこそ問題がある。そしてもう一点厳しいのは、人間の描写が生き生きとしていることと比べると、熊の描写が薄く、ハリボテのように見えてしまうこと。人間の激しさと比べると、動物の激しさはうまく描けていなくて、熊退治はイマイチ印象に残らない。しかし作品の最後の劇的な結末は、これは作品として最高のオチで、やっぱり作品に一貫するものとして激しさが印象に残る。何にせよ、クオリティが高いだけに、さらさらと、しかし多様に読める。70年前の最強の娯楽小説だと思う。

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