2024年3月26日火曜日

 小雨の火曜日。この時期のエディンバラは小雨ばかり。そういうものらしい。エディンバラを出発する。朝4時に起きてバスに乗り、小雨のエディンバラを出発する。行きしに街中と空港の間のバスの往復チケットを買っていたのだけれど、チケットはもはや印刷の消えかけたレシートとなっていて、大丈夫かなと思っていたのだけれど、何の問題もなかった。レシートに復路乗車を示す穴を開けてもらって乗車する。
 ここの人はよくしゃべる。とにかく話しかけてくる。カフェの店員さんもお客さんに無茶苦茶話しかけてくる。何でそんなに聞いてくるのだと思いながらとりあえず僕も適当に話した。中国からエディンバラに留学している人によると、ここはそういう文化らしく、とりあえず会ったら近況報告などをするものらしい。しかし中東はもっとおしゃべりらしく、イラン人の留学生は、ここの人はあまり話しかけてくれない、冷たいと言っているらしい。どうもこっちでやっていくためには、根本的にもっとおしゃべりで社交的になる必要があるらしい。
 エディンバラ空港のお土産コーナーでつい名残惜しくなってハギスを買う。飛行機に乗ってガトウィック空港へ。窓から地上の牧草地の羊を眺めていたら着陸する。ガトウィック空港は晴れ。
 オイスターカードの払い戻しを試みるもよくわからない。聞いたら地下鉄の駅に行きなさいとのことで、もういいや。またいつかロンドンに行きます。
 さっさとチェックインして保安検査場を抜け、朝ご飯にする。英国伝統朝食であるポリッジを食べてみる。メニューの一番上にあったものをとりあえず頼んでみたら牛乳で煮込んだ麦粥にベリー系のジャムやピーナッツバターを投入したものだった。ピーナッツバターとジャムはそんなに合わない気がする…
 だいたいずっとクレジットカードで生活したからポンドが余っている。ウィッタードの日本では売っていなさそうな紅茶とハロッズマーマレード、最後に本屋でトールキンの『シルマリルの物語』と『指輪物語』の原書を買ってお札を使い切る。とうとうトールキンの原書を買ってしまった。これで子どもの頃に思っていたイギリスでやってみたいことはそこそこ満たした気がする。あとは大英博物館大英図書館、グローブ座、ウィンザー、ヨーク、カンタベリーオックスフォードとケンブリッジバース、ストラトフォード・アポン・エイヴォンコッツウォルズノッティンガムリヴァプールグラスゴーウェールズコーンウォール湖水地方、スカイ島、ハイランドには行ってみたいとか、立派なマナーハウスを見てみたいとか、海岸をぶらぶら歩いて見てみたいとか、牧草地の羊たちをぼんやり眺めてみたいとか、『バスカビル家の犬』の舞台となったダートムーアの荒地を見てみたいとか、もっとイギリスの電車に乗ってみたいとか、ブリティッシュエアラインに乗ってみたいとか、クリスティ作品にゆかりの地を見てみたいとか、トールキン関係のところも見てみたいし、あとやっぱりトールキンの本を買うなら『終わらざりし物語』も買っておけばよかったとか、いつかは全12巻の『中つ国の歴史』も読みたいとか、本場のスコーンやウサギのパイを食べるとか…こうやって書き出してみたらイギリスでしてみたいことはまだまだあった。やっぱり子どもの頃から紅茶を飲んでイギリス文学に親しみながら生きてきたから、行ってみたいところはたくさんある。
 僕は東京には5回くらいしか行ったことがないし、東京の観光名所はほとんど回っていないから、僕はもう東京よりもエディンバラのほうが詳しいと言って、昨日は人を笑かせてきた。日本の観光名所に興味がなく、イギリスには行きたいというのも、これで良いのだろうかと思わないでもないけれど…これも日本の人が日本の哲学を読まず、海外のものばかり読むのと同じようなものだろうか。
 空港の本屋で三島由紀夫『美しい星』のペーパーバックが平積みされていて、少し驚く。エディンバラで会った中国から留学しているカルテジアン三島と村上春樹を愛読しているとのことで『豊饒の海』を激賞していた。日本文学はよく読まれているようだ。
 ガトウィック空港から上海の甫東空港へ。最後尾の座席だった。行きは機内食がイマイチだったけれど、今回はビリヤニっぽい料理でおいしかった。お茶もRose Black Teaというフレーバーティーでおいしかった。飛行機では原稿を書いたり、トールキンの『シルマリルの物語』、キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』、中島京子訳の『堤中納言物語』を読んだりして過ごす。行きしは飛行機の中ではぐったりしていたから、それよりはずっと元気に飛行機に乗っている。

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