2023年2月24日金曜日

 雨の金曜日。夕方には止む。鍵とポケットウォッチとポケットティッシュを忘れて出かける。
 ふと昔のことが思い出される。聞かれたから答えただけ。当たり前のことを言ったと思っていた(し、実際にたぶんそうなん)だけど、当時は何も知らなかったがゆえに残酷なことを言ってしまっていたのかもしれない。きっと私はそういうことばかりやらかしてきたんだろう。
 結局私にとって大事なことは私の前で何を行為するかで、表に出てこない心情はどうでも良い。必要最低限の範囲でどのような理由からどのような行為をするのかをざっくりと推理し、あなたの次の行動の可能性を考えるぐらい。表面上の凪の奥に潜むあなたたちの中の嵐のことは、私にはわかりようもない。この日記の前のシーズンである「お団子日記」は私の中の嵐の一端を書き記す変態的な営みだったはずで、ごく一部の変態の方にはお楽しみいただけたようである。今シーズンは、羞恥心が2mmぐらい回復されたので、そういったものは偶にしか書いていないと思う。ごく一部の変態の方には申し訳ありません。今日は書いたよ。
 数日前のメールを見たら「承知いたしました」と書くべきところで、誤変換をして「承知いたします」と偉そうな書き方をしていて恥ずかしい。
 自分、すごく嫌なことをしているなと思わないでもない。
 「自分の世界が二つに割れて、割れた世界が各自に働き出すと苦しい矛盾が起る。多くの小説はこの矛盾を得意に描く。小夜子の世界は新橋の停車場へぶつかった時、劈痕が入った。あとは割れるばかりである。小説はこれから始まる。これから小説を始める人の生活ほど気の毒なものはない。」漱石の『虞美人草』は世界と運命についての小説である。それぞれの人の抱えるそれぞれの世界が邂逅し、割れていく運命が描かれる。自分の世界が割れて各々が勝手に進んでいくことから小説が始まるのならば、この世は書かれない小説に満ちているのでしょう。あなたの小説は始まりましたか。
 来年度前期に学部1年生向け新入生ゼミを1コマ担当せよとの連絡が来て科目のタイトルを求められる。「日本哲学入門(Introduction to Japanese Philosophy)」です。
 「久しぶり!半年以上振りやない?元気にしてた?」とか話していたら「いや11月か12月に会ったと思うんですけど」とのことで、我々は平行世界を移動しているのかもしれない。多少違う世界に移動してもいいけど、九鬼周造が哲学者ではない世界に移動しちゃったら廃業しないといけないな。
 うっかり正気になる瞬間があってその時に「マジで勘弁してくれだよな」とボヤく。それはそのまま頭にこびりつく。